殺し屋シュウの三話目

 コンサート会場のゲートでは手荷物検査だけだった。

 手ぶらだったので警備員はノーチェック。たらしたボタンダウンのシャツの下には、ヘッケラー&コックのセミオートマチック・ピストルPSがベルトに挟まれている。

 ロビーでは女子高生や女子大生がキャラクター・グッズのコーナーの前に群がって、女の毒々しい顔をプリントしたTシャツや、このツアーの限定版キーホルダーを買いあさっている。

 椎名ゆか。ビジュアル系女性ロック・シンガー。一年前にカー・ナビのコマーシャルのタイアップ曲でブレイク。ファンの平均年齢は十八・五歳。新曲「シュート・ミー」はオリコン初登場二位。発売一ヵ月でミリオンセラー。

 女性シンガーでありながらバイセクシャルな雰囲気。それが椎名ゆかの人気の秘密だという。とにかく過剰な包装紙にくるまれている。オレンジ色に逆立てた髪、純白にメイクされた頬にちりばめられたソバカス。口紅はダーク・ブルー。中世に処刑された魔女を思わせる赤いコンタクトの瞳。

 ロビーの壁に貼られた大型ポスターから椎名ゆかに睨まれ、おれは客席への扉の前でしばし立ち尽くした。

 額の中心に穴があき、貫通した9ミリ・パラベラムによって真っ赤にふっ飛ぶ後頭部が目に浮かんだ。

 彼女はおれの標的だった。