短編小説読んでみた

福岡の便利屋

2015年06月

 植物学にくわしいエス博士の家は、郊外にあった。ある冬の日のこと、友だちのアール氏がたずねてきた。
「こんにちは、お元気ですか」
 とアール氏があいさつすると、博士はへやのなかに迎え入れながら言った。
「ええ、久しぶりですね。昨年の夏においでになって以来ではありませんか。きょう、わざわざいらっしゃったのは、なにかご用があってですか」
「じつは、教えてもらいたいことがあってね。このへんは郊外だから、夏にはハエやカが多いはずでしょう」
「もちろんですよ。しかし、それがどうかしましたか」
「それなのに、夏にうかがった時は、それらの虫に少しも悩まされなかった。あとで考えてみると、ふしぎでならない。そのわけを知りたくて、とうとう、がまんができなくなったのです」
「ああ、そのことですか。あれのおかげですよ」
 と博士はあっさり答え、笑いながら、へやのすみを指さした。台の上に、ウエキバチに植えた大きな草花がおいてある。濃い緑の葉で黄色っぽい花が咲いていた。アール氏はそれをながめて、うなずいた。

 

 エフ博士は宇宙船に乗って、星から星へと旅を続けていた。ただ見物してまわっているのではなかった。文明のおくれている住民のすむ星を見つけると、そこに着陸し、さまざまな分野の指導をするのが目的なのだ。

 ちょっと考えると大変な仕事だが、どこの星でも、いちおうの成果をあげてきた。それは、博士が自分で完成したよく働くロボットをひとり、いっしょに連れていたからだ。大型で、見たところは、あまりスマートとはいえない。しかし、力は強く、なんでもできた。また、たいていのことは知っていたし、言葉もしゃべれる。

「さて、こんどはあの星におりよう。望遠鏡でながめると、ここの住民は、わたしたちの手伝いを必要としていそうだぞ」

「これがわたしの作った、最も優秀なロボットです。なんでもできます。人間にとって、これ以上のロボットはないといえるでしょう」

 と博士は、とくいげに説明した。それを聞いて、お金持ちのエヌ氏は言った。

「ぜひ、わたしに打ってくれ。じつは離れ島にある別荘で、しばらくのあいだ、ひとりで静かにすごすつもりだ。そこで使いたい」

「お売りしましょう。役に立ちますよ」

と、うなずく博士に大金を払い、エヌ氏はロボットを手に入れることができた。

だれもやってこない、山奥の森。そこに小屋をたてて、ひとりの男が住んでいた。郵便も新聞も配達されないし、電気がないから、テレビやラジオを楽しむこともできない。しかし、その男は「さびしい」とも「たいくつだ」とも言わず、ずっと鳥たちを相手にくらしていた。

 しかし、静かな生活を、のんびりと味わっているのではない。じつは、悪いことをたくらんでいたのだ。

 男が飼っていたのは、たくさんの九官鳥だった。研究して特別に作ったエサをやって育てたため、普通のにくらべて頭もよく、飛ぶ力も強かった。その鳥たちに毎日、男は熱心に訓練をほどこした。それは、こんなぐあいだった。

「いいか。教えた通り、一羽ずつ順番にやってみせろ」

 その男は、何匹かのネズミを飼っていた。かず多くのなかから選んだ、敏感な性質のネズミばかりだった。

 男は毎日、おいしいエサを作ってやったり、からだを洗ってやったり、熱心にせわをした。ネズミが病気になると、自分のこと以上に心配する。ネズミのほうも、男によくなついていた。晴れた日には庭でなかよく遊び、雨の日には家のなかでかくれんぼなどをする。また、旅行する時もいっしょだった。

 しかし、男がネズミとくらしているのは、かわいがるだけが目的ではなかった。男はいつも、背中をなでてやりながら、こんなことをつぶやく。

「考えてみると、おまえたちがいなかったら、わたしは何回も災難にあっていただろうな」

 ネズミには、近づいてくる危険を、あらかじめ感じとる力があるのではないだろうか。男はこのことに気づき、その利用を思いたったのだ。そして研究は成功し、役に立った。

 かつて、ある日、ネズミたちが、とつぜん家から逃げ出したことがあった。わけがわからないながらも、男はそれを追いかけ、連れもどそうとした。

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