短編小説読んでみた

福岡の便利屋

鍵のかかった部屋の四話目

「座長のヘクター釜千代が非業の死を遂げ、さらには看板役者である飛鳥寺鳳也の逮捕にいたり、

我が劇団『土性骨』は、文字通り存亡の危機を迎えました」

座付きの脚本家である左栗痴子は、重々しい口調で言った。

開演を待つ小劇場の中は、百人近い観客が入ってざわついていたが、

並外れた長身の栗痴子は、座っていても見上げるような高さで、まわりから好奇の目を集めていた。 

鍵のかかった部屋の第三話。

「今日は、グラウンドでの練習は中止だ」

ウォーミングアップが終わったのを見計らって、杉崎俊二は、あえて冷たく宣言した。

「えーっ!」

野球部員の間からは、たちまちブーイングが沸き起こる。

「先日の練習試合で、おまえたちも痛感しただろう?基礎体力の不足だ。

ピッチャーは、五回からバテバテだったし、守備もバッティングも、後半は腰砕けだったよな。

そこでだ。秋季大会に備えるために、持久力と下半身を強化するための基礎練習に専念する。

まずは、ランニングだ。河原のいつものコースを三周して、帰ってこい」 

同名短編集鍵のかかった部屋の第二話

呼び鈴に伸ばしかけた手が、宙で止まった。

会田愛一郎は、逡巡していた。今さら、どんな顔で、あの子たちに会えばいいのだろう。

五年間という長い不在を、どう言い繕えるというのか。

初めてこの家を訪問したときの記憶は、昨日のことのように鮮明だった。

姉のみどりは、行方不明だった不肖の弟を温かく迎えてくれた。

大樹と美樹は、小学生の低学年だったが、突然現れた胡散臭い叔父に初対面から懐いてくれ、

うるさいくらいにまとわりついてきた。

そのときの驚きと感動は、今も胸の奥にある。

高校生の時に家を飛び出して、ずっと孤独な生活を送ってきた自分が、

束の間、家庭というものの温もりを味わわせてもらったのだ。 

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